2013年7月5日金曜日

"I hear those voices that will not be drowned"



写真は、去年、サフォーク州のオールドバラ近隣の小さな町、オーフォードに行った時に、波止場からとった一枚。オーフォードのあたりは、オルド川下流域(オー川 River Ore)の潮のさす干潟と、曲がりくねった入り江が独特の風景を作り出している。遠くに見えているギリシア神殿みたいな影は、かつて核兵器研究所(AWRE)の実験施設だった建物。もちろんいまは使われておらず、廃墟になっているが、このあたりには、他にも第二次世界大戦中や冷戦時代の遺構が点在しているという。

アレックス・ロスの『The Rest is Noise』にも引用されていた、W. G. ゼーバルトの『土星の環』を寝るまえに読んでいる。ブリテンも暮らしたサフォーク州一帯を徒歩で旅をしたドイツ人作家の随想である。その中に、このオーフォードに関する印象的な一節を見つけた。

「男はオーフォード岬にはいまでも近寄る者はいない、と話をした。孤独にはだれよりも馴染んでいるはずの漁師たちすら、二度か三度オーフォード岬の近くで夜網を張ってみたあとはぷつんとやめてしまう。口では魚がかからないからと言っているが、本当はそうじゃない、無のどまんなかに投げ出されたような場所のすさまじい荒寥に耐えきれなくなるからだ。」(W. G. ゼーバルト『土星の環』221頁、鈴木仁子訳)

「無のどまんなかに投げ出されたような場所のすさまじい荒寥」ーーまるで、《ピーター・グライムズ》の主人公の心象風景みたいじゃないか。



もう一枚は、オールドバラの浜にたつ、ブリテンの記念碑。《ピーター・グライムズ》から「I hear those voices that will not be drowned」(第2幕第2場)というピーターの台詞が刻まれている。

0 件のコメント:

コメントを投稿